桜の色合いは華美ではなく香りも淡い、桜の花一輪はそれほど華麗ではない。
しかし、一本の枝、一本の桜木、桜一群で咲き誇るその美しさは
花1輪での美しさを競おうとする他の花を圧倒する。
トゲや毒など隠し持たず、自然の赴くまま、いつでも散り果てる用意がある。
そして、その散り際は、限りなく美しい。
手間隙かけて栽培された桜ではなく自然に生じた野生の桜(山桜)ならば尚のこと、
大自然と一体化した余韻のある美しさを奏でる。
これが「日本人の心」「武士道」であり、「花は桜木、人は武士」と言われる
所以なのだ。
「敷島のやまと心を人問うば、朝日に匂う山桜ばな」
本居宣長(1730-1801 江戸中期の国学者)の作
対照的なのが欧米人の好むバラの花である。
あでやかな色合いと濃厚な香りを持ち、花いちりんの姿の美しさを
競おうとしている。
美しさのその陰にトゲを隠し持ち、その命の尽きるときも、
いつまでも枝にまとわりついたまま朽ち果て、醜い姿を人目に曝す、
武士道の嫌う、生への執着と死への恐れを感じさせてならない。
桜の散り際の美しさとは対照的である。
バラの美しさは、あくまで個々の花輪の美の主張であり、
全体のなかでの使命を果そうとする桜花の純真な美しさが感じられない。
いつ帰ってくる?