顔も知らない相手

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出来事(不真面目)

簡単な挨拶を交わし電話を切ると、軽い決心を含んだため息が自然と漏れた。
いつも机に並んでいる100円の缶コーヒーを一息に飲み干すと、背もたれにかかっている安物のジャケットを着て席を立つ。
何度繰り返しても慣れないこの緊張と期待を含んだ感情に、まだまだ若いなと自分に呟きながらエレベータに乗った。

いつものように何気ない気持ちで階数表示が減っていくのを見つめ、電話では何度も話しているのだ、と自分を落ち着かせる。

初めて電話で話したのは数日前のことだった、すこしハスキーがかった声は不思議と僕を安心させ、何の抵抗もなく自分の望むことを残さず打ち明けられた。それからほぼ毎日僕らは電話で語り合い、少しずつ互いの求めるものを理解しあった。
「明日、そちらに行ってもいいですか?」
昨日の夜遅くに言われたその言葉は半ば予想をしていたとはいえ、自分を動揺させるのに十分だった。

そんなことを思い出してると不意にエレベータの扉が開き到着を知らせるベルがなった。
いつもより少しだけ明るい外の光に戸惑いながらも、ジャケットの襟を正すとエレベータを後にした。

たくさんの人が雑談を交わす中、僕はその人を探して歩き回る。
ふと視線を感じ振り返る。
不思議と一目で「この人だ」と感じる。相手も同じことを感じたのか、いっぱいの笑顔を浮かべこちらに歩いてきた。
そして、電話とまったく同一の声がその口から流れ出る。
「novさんですか?」


















「あっ、○○技研工業の佐藤さんですか?」
「あー、よかった。早くついてしまって申し訳ありません」(ぺこぺこ)
「いえいえ、こちらこそ朝早くから・・・」(ぺこぺこ)
「このたびは技術提携を引き受けてくださり、本当にありがとうございます。」(ぺこぺこ)
「いえいえ、こちらこそお声をかけていただき」(ぺこぺこ)
「あ、申し送れました。改めまして私こういうものです。」(名刺でぺこぺこ)
「これはご丁寧に。」(名刺ぺこぺこ)

こんな毎日。orz

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